Novel / 終わりははじまり


 ガシャーン! ガシャーン!
 耳触りの悪い、鉄をぶつける音が暗闇の中響き渡る。
 それは少しずつ距離をつめ、ついに目前で響いた。

「よし、出ろ!」
「はいはい」
 けだるい返事を返しながら少年は足をほぐして立ち上がる。
 冷たく汚い石の床には慣れてはいたが、抵抗の意味で座り続けるのはまだ少年には早すぎるようだ。
 しびれた両足を軽く拳でたたいて喝を入れると、彼は同居人でもある少年二人に続いて四角く開けた世界の接点をくぐったのだった。


「よし、名前を言え」
 眉間に皺が寄っているのは、立場からか少年たちの幼さゆえか。ぴったりとした制服に身を包んだ大人は、書類を片手にそう命令した。
「トゥルース」「ビッケバッケ」「……ラッシュ」
「そうだな――」
 最後にこの部屋にきたのはいつだろうか、戸惑いと疑いがラッシュの口を鈍くした。だが大人は顔と書類とをちらちらと見比べてから、それを脇の下に納めたかと思うと突然表情を緩めたのだった。
「よく頑張ったな、今日で刑期はおしまいだ。もう盗みなんて働くんじゃないぞ」
「……ほんと?」
「ああ、本当だ。君たちの服はそこにある。着替えたら声をかけてくれ」
 払いきれない疑念に、ビッケバッケは大人を見上げる。だが彼は変わらぬ笑顔でそう告げると、隣の部屋を指さすとさっさと立ち去ってしまった。
「――本当、なんだな」
「やったね、トゥルース、ラッシュ!」
 ラッシュが事実を噛みしめる一方でビッケバッケは二人の手を取ると飛び上がり、その場で囚人服であるところの麻の上衣を脱ぎ捨て走り出した。
「はは、元気なもんだな」
「こうして喜べるビッケバッケが少しだけ、羨ましいかもしれません」
 あっけにとられつつ後を追うラッシュと、上衣を拾って顔を上げるトゥルース。
 その睫毛にはこれから訪れるであろう厳しい現実が暗く影を落としていたのだった。
終わりははじまり
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400文字って……。
幼少期のナイトトリオ、食べ物を盗んだが捕まって投獄されてました、の巻。
20210122



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