Novel / 「あなたは何?」


 傾き始めた太陽の光が窓から差し込む。それに身を晒しながら、フレデリカはゆっくり振り向いた。
 その手には簡素にまとめた季節の花束。荷物と一緒に渡されるそれは「ついで買ってきた」ものらしいが、どういう意味で手渡してくるのかを今の今まで聞けずにいた。
 新鮮なものは店先に飾り、萎れたものはポプリにして眠りの友にする。
 四六時中一緒だとはさすがに口にできなかったが、それとなく相手に伝えると破顔して喜んでくれたものだった。

「――あの、ビュウさん」
「ん? ああ、春が近いらしくて店先がすごく賑やかだったんだ。店の人に選んでもらったんだけど、その分重くなったんだ、ごめんよ」
 組んでいた腕をほどいて、ビュウは困ったように笑った。持て余した手でマフラーをいじる癖は、言葉が嘘でないことの証拠だった。
「大丈夫です、あの頃に比べて力もついたんですよ」
「そうか。そうだよな」
 二つ三つ頷いた彼の表情は凪のように穏やかだった。花の用途を伝えれば伝えるだけ、どうやらそれは花屋に筒抜けになるシステムらしい。専門外だと言いながらメモにまとめた効用を懸命に口にする彼の横顔に、何度癒やされてきたか分からない。

 そして今日もまた、小さな授業が始まる。踏み出したビュウのつま先が自分の影を踏んだそのとき、フレデリカは今日こそ言おうとしていた言葉を口にした。
 こわばる肩、皺の寄る眉間。その変化にビュウは立ち止まったがこれ以上うやむやにはできない。
「――ビュウさんにとって私は何なんですか?!」
「え」
「ただの仕事のパートナーですよね? 花も気まぐれなんですよね? その割に体に気を遣ってもらったり店の棚卸しを手伝ってもらったり、旅の仲間への行動にしてはあなたの意思を強く感じるのも気のせいなんですよね?」

 二人の距離、おおよそ三歩分。そこに巨大な壁でもできたかのように、部屋の空気は静まりかえっていた。
「あ、あ――」
 言い訳に詰まったような声がビュウの喉から絞り出される。そのまま羽根をむしられる鶏のような情けない表情を今は茶化すこともできそうにない。
「あー……うん、ちょっと待ってくれないか」
「いいですけど、答えてくれるまで下に降りちゃだめですからね?」
目一杯の嫌がらせ。そう受け取れそうなくらい、ビュウの両目は見開かれていた。
 羽根の代わりにマフラーを首から外して、それをせわしなくいじり始める。
 そのとき、ちょうど夕日がビュウの顔を照らし出す。眩しさに目を細めた彼の顔は、夕日よりも赤く染まっていたのだった。
「あなたは何?」
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お題の解釈に手間取りました。
フレビュウです。ビュウがヘタレです。フレデリカからそもそも話を切り出しているからこういう解釈もあり……かな……?と思いつつ書きました。どうでしょう?
20210211



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