Novel / 偽物と本物


「もしもこれが、だ」
 手に取ったボトルをゆっくり持ち上げながら、ホーネットは深く嘆息した。
 ラベルには「ハニーワイン」と印刷されている。彼の大好きな、キャンベル産の高級品だ。
「中身を挿げ替えられたものだとしたらお前はどうする?」
「……蜂蜜酒は好みじゃないな」
「お前の好き嫌いは聞いてない。……そうか」
 わざわざ夜中にドアを叩いた訪問者を前にホーネットは一瞬むっとしたが、何かに気づいたように肩を落とした。そして気を取り直すように小さく頭を横に振ると咳払いをひとつ。

「単刀直入に言おう。お前を疑ってるんだ、ビュウ」
「推理を聞こうか」
 多少表情が動けばよかったものの、目の前の容疑者は事を楽しんでいるように余裕を見せていた。それが余計に疑惑を深めたが、大して親交もない仲だ。変に言い訳をされて逃げられないように、穏やかな調子で口にした。
「あの小柄のウィザード。少し聞いたらすぐ白状したぞ、ビュウに好きなものを聞いたと」
「だからそれが手にあるんだろ、よかったな」
「それだけで済んだらこんなことになってない。 ――これだ」
 言いながらビュウにボトルを傾けて見せる。明らかに一度開封した跡のあるコルク栓は、何者かの手が加わったことが明らかだ。
 だがビュウの表情は変わらない。幽霊を相手にしているような不気味さにまた一つため息をついて、ホーネットは言葉を続ける。
「この瓶も……なんだか色合いが変だ。何かが沈殿しているように見えるし、まさか味方に毒を送り付けるような性格にも見えない」
「で、どうしたいと?」
 他に疑うべき人物はいないのに、まったくこの男は反省するということを知らないのだろうか。これが艦長代理だというのだから、彼の下につく者たちは不幸だろう。

 ――いや、それは自分もか。
 内心でそう突っ込んで、ホーネットは自嘲した。だがされるがままではいられない。不敵に笑ってみせると、誘うようにグラスを置いた机を指した。
「だがら共に毒見といこうか。何もなければ明日も問題なく動けるだろう?」
「……そうだな」
 その時わずかにビュウの表情に陰りが見えた。これは余裕を見せていたが故の自爆といったところだろう。
「それならほら、座れよ。時間はあるんだ、今さら退出は認めないからな」
「――わかった」
 少しの間を置いてビュウは頷く。その覚悟を決めたような表情を横目に、ホーネットは明日が平和に終わるよう胸中で祈ったのだった。
偽物と本物
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書いてて年齢が不詳になってきた。15とかそれくらいを想定していたのですが撃沈度MAXすぎましたorz 0626
ホーネットとビュウ。たまには仕掛けたいたずらに自ら引っかかってると思うんだよねビュウって。そうやって仲を深めていってほしいな~!
20210213



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