Novel / 寝ても覚めても


 最近、妙な夢を見る。
 といっても他聞に漏れず、嫌悪感が残るのは起きて数分のことなのだ。
 だから誰にも話したことはない。そうでなくても立場のもたらした責任は、仲間たちの心配という形でも現れる。
 特に舎弟である三人のナイトは、大事件でもあったかのように騒ぎ立て事を大きくするに違いない。それは寝起きである今の瞬間からでも手に取るように浮かぶのだから不思議なものだ。
 脳内で慌てふためく三人の姿に思わず吹き出すと、ビュウはトレードマークであるマフラーを片手に自室を出たのだった。

「ビュウー!!」
「おはよ……おっと」
 喜びに響く声が耳を駆け抜けたかと思うと、次の瞬間には視界は埃に覆われていた。ビュウはたまらず顔を伏せて腕でかばうと、それが落ち着くのを待って出迎えた彼女を満面の笑みで見上げた。
「おはよう。今日も元気で嬉しいけど……もうちょっと我慢してみようか」
「そんなあ……」
 らんらんと輝いていたはずの目から光が失われて見えるのは、きっと気のせいではないだろう。甘えるようにぐるぐると喉を鳴らして顔を近づけてくるサラマンダーの要求は、ビュウの我慢の壁を軽く打ち破った。
「ほら、あの子たちを見るんだ」
 空いた片手で後方に控えるドラゴンたちを指さしつつ、彼の体はサラマンダーの鼻梁に吸い込まれるように倒れ込んでいた。
 彼女にはとりあえずそれで一応通じているはずで、それより朝の何よりも優先して会いに来た最たる理由を一秒でも味わうための理由付けでしかない。
 ――主に甲板を見渡せる、操舵輪を握る男に向かってのアピールが一番大きい。

 吸って、吐いて。吸って、吐いて。
 サラマンダーの体は彼女の体温と太陽の熱で暖まって、ほかほかと気持ちのいいものだった。何よりドラゴン独特の生き物の香りが、彼に活力を与えてくれた。
 だからこそ脳裏をかすめた悪夢のもやを吐き出そうとひときわ大きく息すると、ビュウは抗うように彼女から離れたのだった。
「くふふ……」
「そうだ、もう行かなきゃいけないね」
 鼻を鳴らしたかと思うと、サラマンダーは突然ぶるぶると頭を振った。子供のようなだだのコネ方にビュウは苦笑したが、すぐその表情に陰りが生まれる。
「きゃう?」
「……ああ、最近悪い夢を見るんだよ。起きたら忘れているのに、見たことだけは覚えてるんだ。気持ち悪いだろ?」
「ぐふー……」
 声色に反応しているだけかもしれないが、ちらりと見える牙にビュウの手は自然と彼女の鼻先を撫でていた。
「分かってくれてありがとな。いいんだ、俺にはサラがいる。また明日、忘れさせてくれよ」
 ぐるるるる、と低く呻るサラマンダーの喉。何も知らない人なら遠ざかってしまいそうなそれも、二人にとっては親愛の証なのだ。
 ぽんぽん、と手を弾ませて、ビュウはくるりとサラマンダーに背を向ける。大気を震わせる音は翼のはばたきに変わり、巻き起こる風が彼の背中を船内へと押し進める。
 隊長としての証であるマフラーを巻きながら、ビュウは彼女の存在をより愛おしく感じていたのだった。
寝ても覚めても
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ベタの中のベタ。上手くまとまらね~~~~!!
20210124



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