Novel / おみくじ


 質素で堅牢、何より監視の目がかしこに光る帝国随一の城。
 その中にあって、一層きらびやかに飾られた人気のない食堂にすっとんきょうな声が響いた。
「おみくじだってさ、ラディア。開けてみようぜ!」
「……おみくじ、だと?」
 ずずっ、と食後のお茶をすすって、声の主の前に座る女性は片眉をぴくりと跳ね上げた。
 小さく白い顔から流れるように振る舞われる細い腕。それをかすかに震わせながらカップを置くと、冷たい氷のような目を彼の後ろに控えたメイドに向けた。
「は、はいっ。なんでも他国の文化だそうで……。グドルフさまが気に入られたらしくこちらでも作ってみろとおっしゃって、それでこのような」
「そうではない。これはクジなのだと確認している。ただの菓子にしか見えないが」
 話を遮ったことといい口調といい、ラディアは怒っているようにしか見えない。だからこそメイドは震えが止まらなかったのだが、ただでさえ彼女の表情は読み取るのが難しい。だからこそ彼女と顔を合わせるものが一人、また一人と減っていき、最終的に空気を読まないペルソナだけが食事に同席するようになっていた。

「フォーチュンクッキー、というものらしいです。中に紙が入っていて、メッセージが添えられているそうです……」
「ずいぶんと伝聞調だね。ただの給仕に期待することではなかったか」
 反省しているのか、ラディアは小さく肩を落として薄く笑った。相変わらず血の通わない冷たい表情に、思わずメイドは一歩下がるとうつむいた。
「はい……。なのでメッセージを誰が添えたかも定かではなく……。申し訳ありません」
「ふん。 ……下がれ」
 あざ笑うような息づかいとともにラディアはクッキーを手に取った。とにかく機嫌は損ねていないらしい。これ幸いと立ち去るメイドにはすでに興味がないらしく、彼女はそれを小皿に転がすと目の前の男にちらりと見やった。
「――あ! 『小石』だってさラディア!」
「小石……? それよりメイドの話をきいていなかったのか。毒の可能性や――」
 眉を潜めながらあれこれと策を述べようとしていたラディアの目前に、小指の先ほどの紙が突きつけられる。それには確かにひとこと『小石』と書かれていた。
「…………グドルフめ。新しいおもちゃを見つけたか」
「えっ、筆跡が分かるなんてすごいな! それにしても何だよ、おもちゃって」
 改めて紙をしげしげと眺めつつ意味を知ろうと呻るペルソナの滑稽さに、ラディアは自嘲の意味を込めて鼻で笑った。
「私たちが遊ばれているんだ、もっと早く気づけ。あいつもよっぽど暇なんだな、今度顔でも見せてやるとするか」
 ラディアは机に肘をつき、細く長い指先で三日月の形をした小さなクッキーを可愛がった。その上で割れた中から現れた紙切れを、忌々しげにつまみ上げたのだった。
おみくじ
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この二人の組み合わせはわりと好きです。求む同士。
オレルスにおみくじの文化なんてなさそうだなと思ったんですがこれならば……!
20210129



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