Novel / ビタミンたりてる?


 昼には遅くおやつには早い、緩やかな時間が流れるキッチン。
「あーあーあー……」
 突然一人で入り口に現れたラッシュは、くしゃくしゃと頭をかきながら言い放った。
「おい、なんか食わせろ!」
「……えーっ、お腹がすいてるだけー?」
「ちげーって! なんか腹に入れねーと落ち着かねーんだよ!」
 そう言って、ラッシュはぶるぶると頭を振った。その様子が犬のようだと気が緩んだのも一瞬、慌ててディアナは止めに入った。
「待って待って、キッチンでそんなことしないの! 汚いでしょ!」
「ンだとーー!」
 間髪入れずにラッシュは呻る。これでは本当に飢えた獣だ。
 だが空腹を否定したラッシュの言い分も気にはなる。ともかく今は彼の気を沈めるのが先だとディアナは判断した。タイミングを逃して噛まれでもしたらたまったものじゃない。

「わかったわ! ……でも今はこれしかないのよね、食べる?」
 作業台に並ぶ道具の数々に甘い香りを漂わせるマハール産の果物たち。だがあえてそれには手をつけず、ディアナは保存食を閉まった棚の中から箱を下ろして中身を見せた。
「……食いもんなんだよな?」
「こう見えても美味しいのよー、イライラも少しは収まるんじゃない?」
 笑いかけながらディアナは中身をいくつか取って、そろそろと近づいてくるラッシュに手渡した。手に収まる程度の大きさに切られた、オレンジ色の物体だ。
「まあ、干し芋でも何でもいいか。ありがとな」
 その場で食べる訳でもなく、ラッシュはそれを受け取るとひらひらと振りながらディアナから遠ざかっていく。もつれそうな足取りと疲れた笑顔に、ディアナは小さなため息をこぼすとそっと彼の背中を追ったのだった。
ビタミンたりてる?
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CPですらない。ある昼下がりの一コマ。
20210125



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