Novel / 「ねぇねぇカエルさん」


 「ねぇねぇカエルさん」
 「どこいくの? ボクもついていっていいかなあ」
 

 

 暖かな春の雨が降り注ぐ人通りのない路地裏で、彼は珍しいものをみつけた。
 ずんぐりむっくりした土気色をした大きな蛙が、我が物だと言わんばかりに未知の中央に居座っていたのだ。
 

 普段、この道は少年たちの通り道だった。
 見知らぬ子供が通ればにらみをきかせ、迷い込んだ大人が通れば安全な道まで案内して小銭をもらう、そういう道だ。
 そこに突然現れた闖入者に、少年はカエルの正面に座り込み視界の邪魔になるレインコートのフードを取って見つめあう。明らかな体格の差があろうと、カエルは恐れを感じないらしかった。顔を上げ大きな丸い目で少年をただ見ていた。
 少年は何より、カエルの大きさに注目していた。これだけ大きいということはそれだけ餌を獲っているということ。
 日ごろからお腹を空かせて生きてる彼にとって、その能力は注目に値することだった。
 「ねえねえ、だめ?」
 少し間をおいて、一方的な交渉はあっという間に決裂した。カエルは数回瞬きしたあと、ゆっくりと右に方向転換したのだ。
 「ちぇー、だめかあ。ざーんねん」
 間延びした声で少年は口にして、カエルから目は話さずに立ち上がった。動きで髪に溜まった雨粒がいくらか首筋に流れ込み、ほんの少しだけ身じろぎした。
 「ひえー、冷たいなあ。シャツだめになっちゃったかな?」
 替えがない以上、この雨の中半裸は嫌だなあなどと少年が思っていると、彼の視界に見慣れた二人の姿が入った。それは迷わずこちらに向かってくる。半ば早足なのか、水溜りをはねながら歩くさまはそれなりに急いでいるのだろう、そう思う暇もなく次いで声が届いた。
 「どうしたんですかビッケバッケ?」
 「なんかあったのか?!」
 ――事態は予想より深刻らしい。
 「こっちこっち!」
 手を振り二人に呼びかける。そのやりとりには驚いたのか、カエルの動きは止まっていた。二人に知らせるには今しかなかった。
 

 

 「……なーんもねえじゃん。心配かけやがって」
 「はぐれたことに早く気づいてよかったです。どうかしましたか?」
 「えへへ、ごめんね。でも見て、大きなカエルがいたんだ!」
 「カエルだあ? うわあ、でっけえ」
 「確かに大きいですね。雨につられて出てきたのでしょうか」
 ビッケバッケ、と呼ばれた少年がカエルを指差すと、二人は視線を動かしてカエルに注目する。大げさに驚く少年とは対照的に、観察するように屈む少年。そんな彼にビッケバッケは声をかけた。
 「ねえトゥルース、これだけ大きかったら食べるところいっぱいあると思うんだ。どうかな?」
 「やっぱ食うことしか考えてねーのな、ビッケバッケは」
 「だってー、ラッシュだってお腹すいてるでしょ?」
 「まあな。だから屋台村まで行こうって話だったじゃねえか」
 「うーん、おみやげってことで! どうかな?」
 あきれるように腰に手をやるラッシュをよそに、ビッケバッケははしゃいだ声を出した。少しでも食料に余裕があることが、どれだけ心の余裕に繋がるのかを彼は嫌というほど知っているからだ。
 しかしそんな彼の望みを、トゥルースは立ち上がると小さく首を横に振って断ち切った。
 「……いけませんビッケバッケ、このカエルは確か一部に毒をもっています。素人である私たちが下手に捌いて毒に当たったら大変なんてものじゃありませんよ」
 「えー、残念だなあ」
 「だってよ。見た目じゃわかんねえもんだよなあ」
 ラッシュも多少は期待していたのか、肩を落とすとカエルから目をそらして小さくため息をついた。
 「行くぞ、ビッケバッケ」
 「うん」
 頷きカエルに背を向けるビッケバッケ。そんな彼を横目に、ラッシュとトゥルースは愚痴を言い合いながら元来た道を戻り始める。
 「人も同じですよ、優しい大人がいればよいのですが」
 「大人なんてどいつも同じようなもんだろ」
 「そのときはボクにまかせてよ!」
 「おっ。その言葉、あてにしてるからなビッケバッケ」
 「逆に私はあなたが何かしでかさないか、今から心配ですよ」
 「んだと?」
 「まあまあ」
 二人の間に小走りで追いつき笑顔を振りまくビッケバッケと、その調子につられて笑顔になるラッシュとトゥルース。
 その後姿を、難を逃れたカエルは静かに見送ったのだった。

「ねぇねぇカエルさん」
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幼少ナイトトリオ。
小説もどきってサイトにも書いてあるのになにを思ったかSS書き上げてるし1時間かかってるし何なんですかね。
カエルはヒキガエル想像して書きました。丸焼きにして出してるところがあるらしいね…?(もちろん素人が調理しようなんて思っちゃいけない)
170410



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