Novel / 夢をはこんで


 ジングルベール、ジングルベール、鈴が鳴る――。
 戦争を終えて数年、カーナの冬の街はすっかりクリスマス一色に染め上げられていた。
 ときおり降る雪がもみの木を彩り、鼻を赤くしながら子供たちは街路を駆けていく。
 それはサラマンダーにも等しく降り注ぎ、自慢の赤毛はしっとりと雪化粧をしていた。
 それを払ってやりながら、ビュウはサラマンダーに寄り添い体温を確かめる。
 「寒くないか?」
 「ビュウこそ。ぼく、心配だよ」
 言葉が通じない代わりに、サラマンダーは鼻先をビュウの頬に押し付ける。そしてぺろりと舌で舐めると、冷たく凍りついた肌にさっと赤が差すのがわかった。
 「ありがとう。大丈夫さ、これを配ってやったら後は二人でゆっくりできるからな」
 「わあい!」
 サラマンダーの声が街路にこだまする。日の落ちた町でも、ちらほらいる人間が興味本位で近づいてきては離れていくのを目の端で確かめながら、ビュウは服にかかった粉雪を払って大きな袋を引き上げた。
 「よし、行くよサラ。子供たちが待ってるぞ」

 いななきと共にサラマンダーはカーナの空へ飛び出した。
 ぽつぽつと灯る明かりが、彼らの道しるべだった。だが翼は迷うことなくひとつの教会へ飛んでいく。
 ただ、たどり着くだけでは芸がないとばかりにサラマンダーは教会の周りをぐるぐる旋回してみせる。それは使者の到着を告げるかのように、彼の体につけられたいくつもの鈴が鳴り響いたのだった。
 「わあ! ドラゴンさんだ!」
 「まっかなドラゴンのサンタさんだ!」
 「ちがうよまっかなのはトナカイだよ!」
 わあわあと玄関から飛び出てくる子供たちにあっという間に囲まれた二人は、後から出てきたシスターたちににこやかに出迎えられた。
 「メリークリスマス。わざわざそのような格好で来てくださりありがとうございます」
 「メリークリスマス。いいんです、せっかくの機会なんですから」
 「ぼくも! ぼくもほめて!」
 子供たちのテンションの高さに釣られるようにはしゃぐサラマンダーの頭を撫でてやりながら、赤いサンタのコートを着たビュウはサラマンダーに積んだ大きな袋を下ろしてこう言った。
 「メリークリスマス! いい子にしていた君たちに、サンタさんからプレゼントだ!」


 「…………ふう。お疲れ、サラ」
 「えへへ……」
 子供たちに弄られまわされたサラマンダーは、ビュウの声かけと共に力なく笑うと地面に頭を投げ出した。その顎の裏を、ビュウは優しく撫でてくれる。いつもならくすぐったくてすぐ逃げ出してしまうが、このこそばゆさが今だけは気持ちよく感じられた。
 二人はカーナ城に巡らされた堀の土手の上にいた。明かりのひとつもないこの場所は、今は誰にも邪魔されない二人きりの特等席だった。
 「これで今年のクリスマスも平穏に過ぎそうだな。サラのおかげだよ、ありがとう」
 「アリ、ガト…………」
 すぐに消えてしまいそうなサラマンダーの呟きを、ビュウは噛みしめるように耳を澄ました。そしてとっくに空っぽになったはずの巨大な袋の中から、ひとつの鈴を取り出したのだった。
 「サラ。ずっとお前に何をあげたらいいのか考えてたんだ。去年は純白の雪山を独り占めしただろう? 今年は物をどうしてもあげたくて、それで」
 そこで言葉を切って、ビュウはサラマンダーにもたれ掛かるように寄り添った。そしてその手で、鐙を取り付ける部分に銀色の鈴を取り付けたのだった。
 「食べられるものでも、記憶に残るものでもない。でも今年の冬を一緒に過ごしてくれた感謝の気持ちさ。ほら、街の明かりが鈴に反射して綺麗だろう」
 「きらきら、してる。ビュウの目も、きらきら!」
 「わ、どうしたサラ」
 突然起き上がり、目元を舐めてきたサラマンダーの行動に驚きつつも、ビュウの顔は冬の寒さを吹き飛ばさんばかりの笑顔に包まれていたのだった。


メリークリスマス!

夢をはこんで
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結局これかーい!といわれそうですがそうなりました。
真っ赤なお鼻のトナカイさん改め真っ赤なドラゴンのサラマンダーさん。
をやりたかっただけですが、世界の平和を取り戻した象徴の二人なら、
子供たちに夢を配るにはぴったりだと思えてなりませんお似合いだなあ!
20171224



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