Novel / 「おい、お前ら!」


 「おい、お前ら!」
 行きの勢いをすっかり削がれた三人が路地の間を練るように歩いていると、やや開けた広間の向こうから子供の好戦的な声が飛んできた。
 「……あぁ?」
 「ラッシュ!」
 とっさにトゥルースが止めに入るより早く、ラッシュは声の主のほうへ一人ずんずんと歩いていった。もちろん、ガンを飛ばすことは忘れない。

 「おめーら見ない顔だな」
 「てめーもな」
 手を伸ばせば互いの肩に手が届く距離。ラッシュを呼び止めた少年は、全く恐れることなく声を張り上げた。
 「新入りだ、って言ってもオレたちは追い出すからな。これ以上目立ったらオレらも牢屋行きだ」
 「ってことは、お前らはここが縄張りなんだな?」
 ラッシュの問いに少年はあざ笑うかのようにふん、と鼻を鳴らした。
 その対応にたまらずラッシュが手を振り上げる。それを見計らったように、少年の後ろの路地から少年が二人現れた。服装の感じと少年の言葉を考えるに、彼らは仲間なのだろう。
 「そこのツンツン、手を下げるんだな」
 「後ろのもおとなしくしてろよ、突き出されたくないだろ?」
 「……どうしよう、トゥルース」
 「今は従うしかないでしょう。彼らも面倒が起きるのは望んでいないようですし」
 ラッシュに追いついたものの、状況的にすでに手が出せないことを見越したトゥルースは身を寄せるビッケバッケを安心させようと笑いかけた。
 「そっちの細いのは話が通じるみたいだな」
 「助かった、それじゃ……」
 トゥルースの呟きを聞き取り安心したように顔を見合わせた少年二人。彼らは先にラッシュを見つけた少年の横を通り抜けようとした。
 「「あぁ?!」」
 だが少年はそんな二人を威圧した。なぜかつられてラッシュも語気を荒げてにらみつける。しかしそれが日常であるかのように、冷たい目をした少年は二人を一瞥すると適当な路地を指差した。
 「殴りあうならあっちでやって」
 「アーシャ、てめえ」
 「ユーリが見てるけど」
 声をかけられた少年は視線ひとつ動かさないアーシャから逃れるように、彼の後ろにいるユーリに視線を投げかける。とたんに身を屈め、ユーリは少年の視界から姿を消してしまった。
 「……けっ。おいお前、あっちで決着つけてやる」
 「おう、泣き言言ってもしらねーからな!」
 突然現れた三人の微妙な関係を考える余裕は今のラッシュにはないようだった。やる気に満ちた顔でトゥルースとビッケバッケにガッツポーズをすると、少年の後ろについていく。
 二人が路地に消えた後、四人は奇妙な安堵感に包まれていた。

 「あんなこと言って大丈夫なんでしょうか……」
 それでも心配事がなくなったわけではない。そわそわとラッシュが消えた路地に視線を送るトゥルースに、言葉をかける二人の少年は不思議と冷静だった。
 「平気だろ。少しの怪我なら見てやるからさ」
 「ラッシュは口だけは立派だからねえ」
 「そうだったんだ、ごめんよ。ヒューズはとりあえず殴っておかないと気がすまないみたいだから……」
 身を屈めていた少年は、たいそう申し訳なさそうに両手を合わせて謝る姿勢をとった。彼らの話を聞く限り、ヒューズという少年の言動に悩まされつつ上手く操るすべを得ているように思えた。
 「落ち着いたところで確認させてくれ。お前たちはここを通りがかっただけなんだな?」
 「ええ、遠出しようということで、たまたまここにはたどり着いただけです」
 「三人はここで暮らしてるんだよね、すごいなあ。大人も優しいし道もきれいだし。あっ、ご飯はどうしてるの?」
 いつもどおりのビッケバッケの言動にトゥルースは苦笑し、二人は顔を見合わせるとふふ、と笑い声をこぼした。
 「聞きたいかい? すごいんだよ。ここの人は手伝いをさせてくれるし、小遣いまでくれるんだ。この服だってもらったものだし、いい子にしていれば見逃してくれるんだよ」
 「……それでも見逃してくれているだけだから。おれらみたいなのが増えて困るのはおれたちだから、見かけ次第追い払うことにしてる。うらむなよ」
 広いカーナの王都の中に、これほどの楽園がありながら話が流れてこない理由をトゥルースは思い知った。結局どこへ行っても、自分たちは居場所を守るために戦い続けるしかないのだと。
 「いいえ、驚かせてしまったようですみませんでした」
 「わかってくれたらそれでいい。さて」
 小さく頭を下げるトゥルースとそれに倣うビッケバッケ。そんな二人に小さく手を上げて応えたアーシャは、目配せでユーリに合図する。それと同時に二人は路地へと歩いていった。先ほどから怒鳴り声が聞こえてはいたが、気づけばすっかり音は聞こえなくなっていた。きっと今ごろ、二人して伸びているか男の友情を感じ取っているところだろう。

 だが路地を覗き込んだ二人は、しばらくそのまま動こうとはしなかった。
 しばらくしてユーリだけが、まるで気配を殺すかのようなすり足をしながら二人のもとに戻ってくる。その表情は緊張と不安から強張っていた。
 「どうしたの……?」
 「何かありましたか?」
 たまらず声をかける二人の声を抑えるようにユーリはすっと人差し指を立てると、消え入りそうな声でささやいた。
 「君たちは、早くここから逃げたほうがいい」

「おい、お前ら!」
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兵隊ごっこナイトトリオその3。その2はここ。

これで終わると言ったな?あれは嘘だ
終わらなかった!なんてこった!構成能力……
展開上オリジナルを出さざるを得なかったですが出所がわかる人がいたらすごい。
トリオが協力しながら生き抜いていく話がもっと読みたいです(需要と供給)
170618



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