Novel / 静かな牢屋


 「これも、いやどうでしょう」
 一人で曖昧な答えを出しては、一冊一冊と本を積み重ねていく。
 カーナの王都、その中心にあるカーナ城。そこに収集されたあらゆる知識の中にあって、彼は珍しく一人だった。


 「なんでおれだけ連れてく、って話になったんだよ」
 「聞いてなかったんですかラッシュ、全てはあなたが招いたことです。腹を据えて望むいい機会ですよ」
 「えー」
 団長にあたるマテライトに見つかろうものなら、すかさずげんこつをもらいそうな抜けた表情でラッシュは不満を表した。
 自分の中でもまだまだ成長途中だと思う以上、何かと世話を焼いてくれる彼の存在はありがたいものだった。
 だがどうやらラッシュにとって彼は目の上のたんこぶのようなものらしい。現に目の前で、彼はマテライトに対する愚痴を垂れ流し始めた。
 「だってよー、何かあれば「騎士たるものがなんたることを!」って言いながらぶん殴ってくるだろ、アイツ」
 「といいながら、やってることはそっくりですよ、ラッシュ」
 「んだとトゥルース」
 むくれた顔で反射的に右手を振り上げて、ラッシュはそれを気まずそうに背中にしまいこんだ。
 「それにここに来る前より逃げ足は速くなったのではないでしょうか」
 「結局捕まるんだから一緒だろ。変わらねえのは牢屋にぶち込まれなくなった、ってことくらいだぜ」
 そう言ってラッシュは視線をトゥルースから逸らす。晴れ渡った空の下、これから起こることを思えばため息が出るのも仕方のないことだった。
 「そんなに嫌なんですか」
 「嫌に決まってんだろ。どうせいつもの連中と一緒だろうし。あいつらとは気が合わねえんだよ」
 あいつ、というのは別の部隊に所属している青年たちだとラッシュから話は聞いていた。どうも酒が入ると人が変わるらしく、たびたびそれで騒ぎを起こしているのだという。この年で酒を好きで口にしたことがない、といって散々馬鹿にされてきたことも彼の気に触るのだろう。事実ではあったが、きっとこれからもそんな機会は訪れないと分かっている以上聞き流すしかないのだ。
 だがラッシュに大人の対応を求めたところですぐに限界が訪れるのを、トゥルースはすぐ傍で何度も見てきた。
 だからこそこうして、彼一人の状況にすることで成長を促しているのだと思えばむしろ喜ばしい事なのだ。
 「何事も学習と成長ですよ、ラッシュ。牢屋に入っている間だって、あなたはやけに大人しかったではないですか」
 「おれだってな、考えるときは考えてんだぞ」
 ラッシュの意外な言葉に、トゥルースは目を輝かせた。
 「あそこにぶち込まれたらな、どうやったら少しでもパンを外に持っていけるかを考えてた」
 「ラッシュ……」
 どうりでその後、特に食うに困るはずなのにパンにはありつけていたわけだ。
 思い返せば思い返すほど当時のことがはっきりと思い出されて、トゥルースはしたり顔のラッシュに苦笑を返しながらも彼への感謝を胸にそっとしまったのだった。

静かな牢屋
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即興二次小説のちょっと手直し版。ラッシュとトゥルース
本当は珍しくバラバラの行動になったトゥルースが、自分の不始末のせいで遠征させられたラッシュの話を思い出して彼のいないifに思いを馳せる的なものになるはずだったけど30分じゃ無理でしたー!!
タイトルに触れてるからまだセーフかな?
170814



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