「なあ」
「なんだ?」
「ここ最近の賑やかさは何なんだ」
「ホーネットは季節の行事に興味はないのか?」
「あると思うか?」
「そうだな」
失笑とともにそう答えたビュウの横顔に、ホーネットはたとえ自分のせいだと分かっていても睨みを利かさずにはいられなかった。
ホーネットはアルタイルから帰還後ファーレンハイトを降り、自分の船を持つに至った。
オレルスの守護者となったビュウは、時折こうして船に邪魔をしては二人の時間を楽しんでいた。
それ以外にも重要な意味があったのだが。
「どこのラグーンに降りても祭りだ仮装だ、うるさくてたまらん」
「いいじゃないか賑やかで。ベロスにも広がってるんだろ、いいことじゃないか」
「豊作を祝うほど豊かになったとは思えないんだけどな……」
「改善はされてるだろ。じじ臭いぞホーネット」
「なっ」
青筋が立ちそうなくらいに頭に血が上るのを感じながら、ホーネットはビュウの顔を見た。
「ほら、よそ見厳禁だぞ」
「ぐっ……」
いくら年齢を気にしだしたからとはいえ、ここで反応してしまってはビュウのいいおもちゃにされるのは目に見えていた。既にこの状況を楽しんでいるであろうビュウにこれ以上機会を与えないように、ホーネットは無理やり顔を前に戻すと大きく深呼吸をした。
「……流されるところだった、そもそも何の用だ」
「いやあ、俺もちょうどその件で」
「お前までそれか」
「まあ聞いてくれよ」
息を整えたところでビュウの口から出た答えに、ホーネットは再度落胆の息を吐いた。
がビュウは笑顔で甲板を見下ろすとそこにいるものに向かって手を振った。
「きゅるる!」
ビュウの視線に気づいたパピーが、嬉しそうに翼をばたつかせて鳴き声をあげた。
「そういえばパピーの顔を見るのも久々だったな」
「変わらず元気みたいで良かったよ。船が小さくなったから窮屈そうだけどな」
「金がなくてすまなかったな」
純粋なビュウの感想に、ホーネットは拗ねたような物言いをした。
事実パピーとともに暮らすために、必要以上の大きさの船を買わなければならなかったのは事実だった。そのおかげで反乱軍時代を思い出させるような生活を強いられていた。
「でも食う分には困らないだろ?」
「おかげさまでな。でもまさか現物支給だとは思わなかったぞ」
「空いた倉庫に突っ込むだけなんだからいいだろ?」
「……まあな」
「それで今回の分は俺が直接運びにきたわけなんだが」
「それはどうも」
「なあ、キッチンに立つ時間はあるか?」
「……ああ?」
ビュウの口から出た思わぬ言葉に、ホーネットは思わず彼の顔を見ると目をしばたかせた。
「なんだ、って見ての通りさ」
キッチンの様子を見ての問いかけを、ビュウは軽く流した。いつもなら片付けられて殺風景なくらいのキッチンに、道具と食料が既に用意されていたからだ。
「言うだろ、「お菓子をくれなきゃイタズラするぞ!」って」
「ああ、ハロウィンの。それをここで作るって?」
「ご名答。ホーネットが行事に興味がないのは分かってたことだし、前もって準備させてもらった」
はは、とホーネットの口から笑いがこぼれた。エプロンを手渡されて素直に受け取る。ここまで理解してくれる相手は後にも先にも現れないだろうな、と思わずにいられなかった。
「でも言葉をかける相手もイタズラを仕掛ける相手もいないだろ」
「パピーがいるさ」
「ああ、確かにあの子ならお菓子をあげてもイタズラされるな」
「お化けの被り物も用意したから、後で着てみてくれ」
「お菓子ともども食べられる未来しか見えないな」
その様子がいとも簡単に思い浮かんで、二人は顔を見合わせるとくすくすと笑った。
「……あれ?」
「どうした」
「いや、これは」
ホーネットの喉がごくりと鳴った。目線をつと逸らした先にあったのは、果物などの間に紛れて並んでいた年代物のワインだった。
思わず手に取りラベルを確認する。確かにこれは、前にビュウが訪れたときに飲みたいと愚痴をこぼしたシロモノに違いなかった。
「やっと見つけてくれたか。探したんだぜ、それ」
「これもパピーに?」
「まさか。つまみもいいのを用意したし、今日はここに泊まっていくから今夜は楽しもう」
「……そうか」
笑顔を残して準備を始めるビュウにぶっきらぼうに言葉を返したホーネットだったが、その表情の裏で彼の心は二人の夜に飛んでいた。
Trick or Treat!
あれ=パピー これ=ビュウ
というわけで二人のハロウィンでした。CP要素……どこ……?
急がしくて中々会えない二人だからこそ、その時間は濃密なんだろうなーと思います。
このビュウは素敵な奥さんですね羨ましい。 20161031