「マニョマニョ(つぎのおれらのぶたいはこのしろか)」
「ムニョムニョ……(それにしてもしずかじゃないか?)」
「ムニョ~(おいワガハイ、本当にここであってるんだろうな)」
一箇所に留まれない性質上(たとえそれをプチデビが望まなくとも、だ)様々なラグーンを人の船に乗り込んで移動していたプチデビたち。
その先々でトラブルを起こさないことはない、まさに疫病神の彼らが立っているのは巨大な城門の前だった。あまりに大きすぎて、プチデビたちの目には扉の全体すら入っていない。
そもそもプチデビたちが、城などという似つかわしくない場所に立っているのだろうか。彼らは物見有山で来たわけでも、まして招待されたわけでもない。
「もちろん。この紙の通りだ。というわけで、門番よ。この担当者を呼んではくれないか?」
「な、なんだと……?」
唐突に人の言葉を喋る珍妙な生き物の姿に門番のひとりはまず驚き、もう一人は不審者を見る目でワガハイの小さな手から紙を受け取った。
「ったく、子供のいたずらに付き合うほど暇じゃな……?!」
ぶちぶちと文句を言っていた門番だったが、そこに書かれていたことに目を通すと顔色を変えて走り去っていく。隣の門番はまだプチデビたちを疑ってはいるものの、相棒の行動にただならぬ気配を彼らから感じ取っていた。
「おい! 伝令だ! 早く将軍につないでくれ!!」
「…………将軍を呼び出すなんざ、何モンなんだ、お前ら?」
「われらはプチデビ。踊りひとつで状況をひっくり返すことのできる、唯一の存在だ」
「むにょむにょ……(おどりってどうなるかは、おれたちにもわからないけどな!)」
***
「……で?」
「何度も言わせないでもらおうか、確かに我々は貴方の助手に応募したものだ」
ただでさえ薄暗い室内で、表情の分からない女はますます不気味に思えた。
「……ふうん」
心から興味はない、と言いたそうな答えが彼女の口から漏れる。その態度が演技で、乗り越えたもののみが助手になれる試験が既にこの場で始まっていたのかもしれない。
しかしそういい聞かされたとして心象が悪いことに変わりはない。底抜けに陽気で気ままなプチデビも、気分が悪くなれば口も態度も悪くなる。
「マニョマニョ……(ホントにこの女であってるんだろうなあ?)」
「ムニョ~(ちがったらこのへやをあらしてやろうぜ!)」
「モニョモニョ(ちかだから、はでにやってもバレなさそうだしな)」
「何を集まってひそひそしてる。大方私の処遇でも決めているところか」
言葉は通じずとも自身がどう思われているのかは分かるのか、女は笑った。
といっても口角が僅かに上がっただけで、人が見ればただの皮肉だと取られるだろう。
だがそれが興味を引いたのか、女はゆっくりと口を開いたのだった。
「……それで? お前たちは何ができるんだ。ご機嫌取りの道化師希望なら適した人間を紹介するぞ」
「質問で返すのは何かと思うが、我々プチデビを見知ったことは?」
「ないな。聞いたこともない。その格好や喋りは演技でないらしいな。人の言葉を話せるのはお前だけなのか」
「そうだ。残念ながら後ろの三人はまだまだ未熟でな」
女の言葉を意にも介さずワガハイが答え終わるが早いか、井戸端会議をしていたプチデビたちは一斉に騒ぎ立てて反論した。
だがその様子は、癇癪を起こした子供とそう変わりなかった。飛びはね地面を転がり言葉にならない声を立てるそれらに目をやって、ワガハイは大仰にため息をついた。
気難しそうな女を前に、騒がしいだけのピエロが受け入れられるはずもないと思ったのだ。
「すまない、騒々しくて。まったく、プチデビ三銃士たるものが――」
「――ふふ」
変わらず騒ぐプチデビをよそに謝ろうとしたワガハイが見たものは、表情などとうに忘れてしまったような女の、少女のような微笑みだった。
「ふふ、本物の道化だな。これはこれで面白いな、ふふっ」
「モニョー!(おれたちはみせものじゃねーぜ!)」
「ムニョムニョ~(はらがよじれるまでわらわせてやってもいいんだぜ)」
「マニョ~?(ワライダケでもくわせるのか?)」
抗議の的が女に代わる。だが相変わらずの様相に、女はくすくすと笑いながらワガハイに顔を向けた。
「見世物ではないといいたいのは私も同じだ。愉快に思ってくれるのは構わないが……」
「ああ、ああ、そうだった。すまない、これは仮にも採用の場だったな」
一回、二回。そう言うと女は深く呼吸をする。彼女の笑いのツボに入ったのか、その青白い頬は軽い赤みを帯びていた。
「こんなに笑ったのは久しぶりだ。何せ私の研究室は無音の世界だからな」
そう言って女は背後をちらりと振り向いた。ただでさえ薄暗い部屋の中は両壁に水槽のようなものが隙間なく並んでおり、その奥は光の届かない闇の世界だ。彼女にとっては落ち着く場所かもしれないが、生き物の気配がないこの空間はプチデビであっても不気味に感じるものだった。
「魔法の使えるものを募集しているようだが、ここで魔法生物でも研究しているのか?」
「そんなところだ。それにしても面白いな、その姿で魔法が使えるとは」
「魔法とは少し違うが、現象を起こすことが我々にはできるのだ」
ワガハイが自慢げに小さな胸を張る。すると女は目を輝かせて何度か頷くと、よし、と呟くと歯を見せて笑った。気付けば彼らの前に立っていたのは、年齢さえわからないものの人並みに笑うひとりの女性だった。
「決めた。お前たちプチデビは、今日からベロス将軍ラディアの配下だ。光栄なことだぞ、大いに喜ぶといい」
声も体も細いが、その宣言は力を持ってプチデビたちを飲み込んだ。つかの間の沈黙の後で、やはり彼らは飛び跳ねながら女、ラディアに何事か注文をつけている。
「こんな決め方でよかったのか……?」
「私がいいと言うならいい。せいぜい私を楽しませてちょうだい」
歩き出したラディアの傍らにつきながら意味ありげな言葉に首をひねるワガハイに向かって、ラディアはにこりと笑ってみせたのだった。
タイトルはそれっぽく中身はアレ。
脳内情報書き散らしなので読み物としては足りないですが許して……
少女みたいな笑みを見せるラディアください(懇願)
とりあえず書いてみたかったので書いた。ラディアの口調がだいぶ迷子だけど正解はどこ……??
20180115