今日は休日。
俗に言う「ハロウィン休日」というやつである。
確か収穫祭と悪霊を追い払う精霊祭が一緒になったものだと記憶している。
が、子供にとっては各戸を廻ってお菓子を貰う楽しい日だと認識されているだろう。
フレデリカもかつては魔女の仮装をしてお菓子をねだりに行ったものだ。
「あの、ビュウさん」
「なんだ?」
年中無休かと思われている『オレルスを見守るお仕事』も、暦通りに動いているらしい。いつもならとうにいないはずのビュウが、今日は向かいの椅子に座って新聞に目を通している。
「今日はお休みなんですね」
「ああ、オレルスが平和になったろ?その時にヨヨが暦を統一したんだ。だから今日おれが出向いても、きっとどこでも門前払いさ」
新聞の向こうからビュウの微笑みが覗く。
「だから今日は一日家にいられるよ。何かあったら使ってやってくれ」
「それなら、ビュウさん」
そこまで言うとフレデリカは椅子からゆっくり立ち上がりビュウに背を向ける。
そして再び向かい合うフレデリカの小さな掌には、キャンディポットが載っていた。
商店街で買った、丸々とした形の可愛いガラス容器。中には色とりどりのキャンディが入っている。
本来こうするのは逆の立場なのかもしれないが、目の前のビュウがすっかりリラックスしているところを見ると、これくらい行動しないといけないのかもしれない。
きっとそうよ、とフレデリカはひとつ頷くと、ビュウに向き直って息を吸った。
「……お菓子をあげるので、イタズラしてくれませんか?」
「…………もういっか、いや、いい」
新聞から目を上げたビュウの目線は耳まで真っ赤なフレデリカに釘付けだった。目を逸らしたいところを我慢しているせいか目は潤み、唇が恥ずかしさから震えている。
そんな彼女に半端な言葉しか出てこずまばたきするのがせいぜいのビュウは、勢いのまま立ち上がると手を伸ばすとフレデリカの頭に向けてそっと伸ばした。
「ごっ、ごめんなさい」
「なんで謝るんだ?」
綺麗に梳かれた髪を乱さないように頭を撫でると、ビュウはにこりと笑いかけた。
小さく肩をすくめて目を閉じたフレデリカは、暖かくて大きな手がそっと離れていくのを感じて目を開けた。
「えっ、ええと、子供みたいなことを言ったら怒るかもって」
「ふざけて怒る相手はプチデビくらいなもんさ。それで」
「……はい」
「キャンディー、もらってもいいかな?」
頭から髪を撫でるように下ろされたビュウの手は、キャンティポットを載せたフレデリカの手に添えられていた。
「は、はい」
ビュウの熱がフレデリカの指先に伝わり、ひんやりとしていたそれはあっという間に溶けあいひとつになった。
「はい、どうぞ」
ビュウにポットを持ってもらい、フレデリカが蓋を開ける、という共同作業をした後で、彼女は中から緑色の飴を取り出した。
ビュウの唇にキャンディを添えると、沈んでいくように口の中に消えていった。指先にしっとりとした口付けをもらうと、その時間がすぐ終わってしまうことが急に惜しく感じた。
「……ふふ」
「あっ、ごめんなさい」
「また謝ってる」
そのまま時間が止まったことをおかしく思ったのか、ビュウは含み笑いをする。思わず唇から手を離すと謝るフレデリカに向けて、彼は大丈夫さ、と呟いた。
「もっと自信を持って欲しいって前から思っていたけど、後もうちょっとかな?」
「そうですか……?」
笑顔で語りかけるビュウの一方で、不安を隠せないフレデリカ。そんな彼女にひとつ頷くと、ビュウは顔をつと寄せてささやいた。
「……イタズラして欲しい、なんていわれて断れる男がいるわけないだろ?」
「えっ、あっ、んんっ」
言い終わるが早く、フレデリカの唇をビュウは奪った。そのままキャンディを彼女の口に移すと、甘くとろけたそれを楽しんだ。
ことん、とフレデリカの手からキャンディポットが落ちて、中身が辺りに散らばる。
それに意識が向くこともなく、二人は熱く甘い時間を過ごしたのだった。
HappyHalloween!
お久しぶりのような気がするビュウフレ。ハロウィンのとある1シーン。
お菓子をあげなくてもイタズラしちゃうぞー!は書いてみたかったんですよねー
アグレッシブフレデリカ可愛いよ可愛い。 20161101