「ああもう、忙しい忙しい!」
ディアナは真新しいガーゼの山を抱えながら、ファーレンハイトの廊下を足早に歩いていた。
「あっディアナ、それ半分は女子部屋にお願いね!」
「ゾラさん、ごめんなさい私こんな事しか」
「何言ってるんだかね、今はプチデビ一匹の手も借りたいくらい忙しいんだから気にしない事!ほらほら足を動かす手を動かす!」
廊下の途中ですれ違ったゾラに笑顔でぽんと肩を叩かれ、ディアナは気を入れ直すかのように笑顔で頷き返した。
それにしても」
ゾラが遠くに離れて行くのを見送りつつ、前を向き直したディアナは辺りの喧騒に向かって呟いた。
「こうなるまで訓練を繰り返すなんて、ビュウの考えってよく分からないわ」
事の始まりは昨日に遡る。
ゴドランドを解放し、無事ガルーダも仲間にした反乱軍は揚々と次の目的地へ進軍していた。
――かのように見えるが、その裏ではヨヨがガルーダの心を知り倒れ、それからずっと起き上がることさえままならない日々が続いていた。
その上、次の目的地はまだ誰もその地を踏んだことのない熱砂のラグーン。
徐々に熱をはらむ風を確かに感じながらダフィラへの上陸を待っていたディアナたち戦闘員たちに、突然召集がかけられた。
ついにサウザーとの決戦が繰り広げられるのかと一同はざわついていた。
しかしビュウが出した指揮はサウザーが陣取る首都への進撃ではなく、遥か南にある寒村を砦として補給を行う部隊への強襲だった。
しかもその周囲にあるグランベロス配下の砦を、明日までに一気に潰すというのだ。
期待を裏切られたことと強行軍になることが重なり、一瞬反発が出たがビュウの言うことだ。すぐに出撃準備が慌しく始まり、ファーレンハイトの降下とともに彼らは戦場へと飛び出していった。
そして時は今に戻る。
「――あれ?」
いつの間に過去を思い出そうとしてぼんやりしていたらしい。
ディアナは我に返るとざわつきが聞こえる部屋を目指して歩き出した。
大部屋に入り、頼まれていたガーゼをあわただしく配り歩く。
それが終わると、今度は個人の治療を直接見なければならない。
ベッドの合間を見て歩いていたディアナを、調子のいい声が呼び止めた。
「おー、こっちこっち」
「どうしてあんたはそう笑ってられるのよ」
ベッドに縫い付けられているかのような状態でも手を振ってみせるラッシュに、ディアナは薬品の入った籠を抱えたままため息をついた。
プリーストたちの治癒能力は便利で戦場では必要なものだ。しかし密な戦闘を終えて、彼女らの精神力は消耗しきっていた。いくらドラゴンの力を借りて強化されていても足りないくらい、強行軍が堪えていたのだった。
そのツケは主に前線で戦う男たちに振って掛かった。
おかげで魔法で回復しきれないぶんを薬品で治療せざるを得なくなり、魔法が使えないプリーストが主に駆りだされていたのだった。
「……で、調子はいかが?」
「見てのとおりだぜ。ったくひでえカッコだよな」
「ホントね」
「んだと」
「はいはい、暴れないでね。体動かすわよ」
売り言葉に買い言葉、悪態をつくラッシュをたしなめつつ、ディアナは彼の体に手を添えると持ち上げて、出来上がった隙間に枕を添える。ガーゼと包帯を交換するためだ。
「いってえ」
「すぐ終わるから我慢して。男でしょ?」
「関係ねえだろ、まだ魔法使えねえのかよ」
包帯をほどきガーゼをのけると、そこから肉の桃色が覗き流れる血の臭いが鼻をつく。
普段魔法に頼って直接負傷しているさまを見ていない彼女にとって、久々に見る痛々しい怪我は気分を害するのに十分すぎた。
「……使えたらこんな気分にならずに済むのに」
患者を目の前にして言うにはあまりにも素直すぎる感情を、ディアナは吐き出すと奥歯をぎゅっと噛んだ。
それは普段笑顔を心がけている彼女からは想像もできない表情だった。しかし、これが文字通り魔力を振り絞るためのものと分からないラッシュはただそれを見ていた。
ゆっくりディアナの右手がラッシュの傷口に添えられる。誘導されるようにラッシュの視線が移る。少ししてディアナの腕が小さく震えたかと思うと、ラッシュの体に訪れた感覚は戦場で何度も味わったものだった。
「んっ」
「おっ」
ディアナが眉に皺を寄せて小さく呻く。傷口が光の粒に包まれ、光が収まった後手を離すとその下にあったはずの開いた傷口はうっすらと跡を残すだけになっていた。
「……ふう」
「やればできるじゃねーか。助かったぜ」
「これが今の私の精いっぱいよ。これ以上は無理」
ディアナは胸に手を置き浅く呼吸を繰り返していた。想像以上に体力を消耗したのか、彼女の額にはじわりと汗が浮かんでいる。
「ほら、これで拭けよ」
「えっ? というかこれガーゼじゃないの……まあ、いっか。ありがと」
とっさにラッシュは身を起こすと枕元の棚に置かれた治療用の道具の中からガーゼを取るとディアナに差し出した。それに小言を漏らしながら受け取り、額を一通り拭うとディアナは疲れた笑顔をラッシュに見せた。
「まだ休めるわけじゃないのにこんなことさせるなんて、ひどい男ね」
言いながら汗で湿ったガーゼをポケットにねじ込むディアナに向かってラッシュは笑い返した。口から下手な感謝の気持ちを伝えるより、こうして態度に示したほうが彼女も安心するだろうと思ったのだ。
「まあまあ。俺が一番の重症だったんだから、後は楽なもんだろ」
「あんたがそんな怪我さえしなきゃ……」
しかしラッシュの思いはディアナの気分をげんなりさせるだけだった。彼女はため息とともに小言を口にしたが、何か思い直したのか気まずそうに小さく咳をした。
「ううん、そもそもビュウの立てた計画が無茶すぎたのがいけないのよ。そうでしょ?」
「……ディアナはそう思うんだな?」
「そうよ。だって明日にはサウザーと戦うんでしょ? なのにみんなぐったりしてるじゃない。お金も薬も足りないのかもしれないけど、それでも急ぎすぎなのよ」
ラッシュの問いかけを口火にディアナはビュウに対する不満を一気に吐き出した。
みるみる彼の表情が険悪になっていく様子に気づき、ディアナははっとして口をつぐんだがどうやら遅すぎたようだった。
「あのな」
「な、なによ」
明らかに怒りのこもったラッシュの声に、ディアナはとっさに身を硬くした。
大怪我を治したばかりで手が飛んでくるとは思えなかったが、それでも彼を怒鳴らせるには十分なことをしたと理解していたからだ。
そんなディアナの予想通り、ラッシュは握ったこぶしをわなわなと震わせていた。
しかしそれは振り下ろされることなく解き放たれ、彼の体は再びベッドに沈む。
ばねの軋む音に紛れるように、ラッシュのため息が二人の間に流れた。
「やっぱなんでもねえよ」
「……そう言われちゃうとなあ」
ラッシュの手から顔に視線を移してディアナは緊張とともに息を吐き出すと、空いた左手を落ち着かせるように頬に添えた。若干の熱っぽさを持ったそれは、彼女に休憩の大切さを説いているように思えた。
一方ラッシュは怒りと一緒に気も抜けたらしく、弾けそうな緊張感はなくなっていた。それでも眉はしかめたままディアナの顔を見上げ、押し出すように言葉を口にした。
「だから、ほら、行けよ。まだやることがあるんだろ」
「う、うん。そうするね」
彼なりの優しさなのだろうとは思っても、その口調が突き放すように聞こえるのは仕方ないのだろう。ディアナはそれに答えるようにはにかみ頷くと、汚れ物と医療品をそれぞれの手に持ちベッドをゆっくり離れた。
「私の好意を無駄にしないでよね」
「わ、分かってるって。おとなしく横になってればいいんだろ」
「そういうこと」
背中を向けたまま最後のとどめを刺すディアナに、ラッシュはけだるげに答え大人しく彼女を追っていた視線を外す。去り行くディアナのしゃべり方は、どこか本来の彼女が持つ快活さを取り戻したかのように聞こえたのだった。
「あー、少し体を動かしておくかな」
ラッシュはぐるりと両の肩をまわすと、そうひとりごちてベッドを抜け出した。
ラッシュが再び目覚めると、辺りはすっかり日が落ち薄暗くなっていた。知らない間に夜になっていたようで、彼の耳に聞こえるのは体の疲れは口先だけではやはりごまかせないらしい。
砂漠の夜は寒いとは聞いていたが、心構えなく訪れた現実にベッドから体を起こしたラッシュは思わず身震いした。寝ている間に配られたのだろう、厚手の毛布のありがたさをこんな場所で知るとは思わなかった。
そんな温もりに後ろ髪を引かれつつベッドから足を出したラッシュは、ふとキャビネットの上に重ねられた着替えの上に見知らぬ服が乗せられていることに気づいた。
広げてみると、それは長袖の上着だった。きっとこの寒さの中トイレに立つために用意されたのだろう。不便な作りの艦内を歩くためとはいえ、ここまで細かい心配りができるのは誰だろうと一瞬考えて、すぐ浮かんだのはゾラの顔だった。
それなら納得できる。とラッシュはひとり頷いた。現に昼間、艦内でひときわ響いていたのは彼女の声だったからだ。次に彼女にあったら、せめて感謝くらいは言葉にしておこう。そう思いつつ、ラッシュはボタンを留めるとスリッパに足を通した。厚さに若干不安があるのか、足の裏を通じて改めて上る寒さが彼の表情を歪ませた。
「やっぱさみいな……」
手のひらをすり合わせスリッパの音をぺたぺたと立てながら、ラッシュはゆっくり廊下に出た。艦内は寝静まっているかと思いきや、女性が寝ている大部屋のドアは開いたままで明かりが漏れている。
「まだ起きてんのかな。いや、明日はサウザーとの決戦なんだ。さすがに……」
そう呟きながら、ラッシュはこっそりと大部屋の中を覗きこんだ。
普段なら近寄ることもない、それでも興味が失われたこともない未知の場所に彼は一瞬息を呑んだ。
「……だよなあ」
しかしそれはすぐに落胆の表情に変わる。開け放たれたドアのすぐそばに置かれたままのランプが弱々しい明かりを床に放っていた。その奥はすっかり明かりが落ち、どうやら彼女たちもまた眠りについているようだった。
「にしても無用心だよな。でも仕方ねえか、みんな疲れてんだ」
そう合点すると、彼はランプを消して慎重にドアを閉めた。そして用を足して再びベッドに戻ろうと、きびすを返すして再び廊下を歩きはじめた。
不便な作りの艦内だといったが、実際水周りは戦艦として動かすことを決めた後に拡張されたらしく、特に女子から多くの不満が出ているのは事実だった。
それでもこの艦に乗っている以上は使わねばならないわけで、彼らは時折事件を起こしながらも折り合いをつけて付き合っていた。
「ふう」
若干音の気になる換気扇を回して、ラッシュはトイレから出てきた。比較的エンジンルームに近いお陰で上手いこと音はまぎれるだろうと彼は心に余裕を持った。何より今、この空間には自分しかいないのだ。
「……あれ」
と思ったがそれも気のせいだったらしい。少し離れた場所から明かりが漏れていたのだ。
場所からしたらシャワー室か、その隣にある脱衣所だろう。それでもこの時間にシャワーを浴びる人間はさすがにいないし、あっても電気の消し忘れに違いない。
「ったく、ちょっと気が緩んでるんじゃねえか?」
普段なら朝礼でセンダックからうだうだ小言を言われることは間違いない。見つかった相手が自分でよかったな、と内心そう思いつつ、ラッシュはひょいと顔を覗かせた。
「誰だかしらねーけど確認くらいしてから部屋を出ろよ、な……」
誰にともなく投げかけたはずのラッシュの愚痴は、思わぬところにあたって彼を驚かせた。思わず口をつぐんで相手の出方を見る。しかし幸か不幸か、彼女はすっかり夢の中にいるようだった。
「ディアナ?」
恐るおそる声をかけるラッシュ。彼の目の前で確かに眠っているのはディアナだった。
彼女は休憩のために置かれた椅子に座っていた。しかし背もたれに身を委ねるより気持ちがいいのか、タオルの山にもたれ掛かりすやすやと穏やかな寝息を立てている。
しかしここは暖房も何もなく、ディアナは昼間見た格好のままだった。
ラッシュは手を伸ばしては引っ込めるを繰り返した後で、覚悟を決めたかのように頷くとディアナの肩をそっとつかむとそろそろと揺さぶった。
「おい、起きろ。風邪引くぞ」
「――んん、待って、後ちょっとなの」
「何がちょっとだ、鼻たらして戦うつもりかよ」
彼女の口からでたのは寝言だと分かっていても、いつもの調子で軽口をラッシュは軽口をたたく。それに反応するようにディアナはうっすらと目を開けた。現状を確認するかのように数回瞬きをすると、ラッシュの顔を見て小さく首をかしげた。
「……なんでアンタがここにいるの? あっ、せっかくいるならさ、このタオルの山を」
「おい!」
「はいっ! え、えっ、なに?」
「いつまで寝ぼけてんだよ。もう夜だぞ、とにかくベッドに戻れよ。ほら」
寝ぼけているのかにこにこ笑って立ち上がるディアナの手をとって、ラッシュはくるりと背を向けた。不意をつかれたのかつんのめったディアナは、そのまま大人しく部屋を出た。辺り一面を覆う暗闇を改めて目に入れて、やっと現状を理解したようだった。
「すっかり夜なんだね。私、すごく熟睡してた?」
「ああ、そりゃあもう」
「……ということは、ラッシュ、私の寝顔をじろじろ見てたのね」
「んなことしねーよ……」
「ふふ、冗談よ冗談」
うんざりしたラッシュの物言いにくすくす笑ってみせるディアナ。このまま変に覚醒されて明日に影響が出ても困る、とラッシュはいつもなら口答えするのをぐっと我慢した。
「じゃあ、ちゃんと寝ろよな」
そういってラッシュはディアナの手を解いた。眠っていたせいか温かい手を離したとたん一気に襲ってきた空気の冷たさに耐えられず、ラッシュはさっと手を長袖の中に引っ込めた。
「起こしてくれてありがとう。ところでそれ」
「それ?」
「その長袖。着てくれたんだ」
「ホントいろいろやるんだな……」
「今日は特にね。それよりいいの? 私もラッシュの顔をじろじろ見てたかもしれないのに」
「笑うと心に余裕ができるんだろ? ならいいんじゃねえの」
「……あれ?」
ラッシュの言動が少しおかしい。優しすぎて拍子抜けするどころか若干の気持ち悪さすら感じるくらいだ。それを隠すことなく表情に出して、ディアナは人差し指で頬を軽く掻いた。
「いいんだ? ビュウに言ったらしばらくいじられそうな顔だったかもしれないのに」
「そんなもんよりお前が疲れで倒れられるほうが大変だろ。お前の代わりはいないんだからさ」
「えっ?」
あくまで真面目な顔でそう言うラッシュに、ディアナの鼓動は大きく跳ねる。
しかしそれは主語を誰にしても通用することにすぐ気づき、彼女は小さく息をついたのだった。
「そう、だよね。ヨヨさまなんてずっと熱が下がらなくて苦しそうだもの」
「やっぱりそうなのか。明日もきっとヨヨさまはベッドから出られないんだろうな」
キャンベル奪還時にその顔を見てから、ラッシュはろくにヨヨと話をしていなかった。状態はすべてビュウからのまた聞きだったが、それでもかなり体調が悪いことが手に取るように分かり彼を悩ませていた。
そんな今だからこそ、ラッシュにはビュウの考えが少しは分かるようになっていた。
「だから、ビュウはサウザーとの決戦の前に手前の補給部隊を倒すことにしたんだろ」
「それって、キャンベルと同じってこと? それなら……」
「まあ待てって。今日のことを思い出せよ。敵の顔をさ」
「敵の……。必死であんまり覚えてないけど強かったよね。見たことのない顔ばっかりで」
「つまりそういうことだ」
「うん?」
大きく頷くラッシュに対して、ディアナはまだ理解しきれていないのか彼の顔を見て瞬きを返す。そんな彼女を小ばかにすることもなく、ラッシュは再び口を開いた。
「敵の本体と離れたところにいる敵が見たことないやつらだったろ。つまりは明日戦うやつらの中に少なくとも今日戦ったやつらがいるってことだ」
「あ、そっか。……でもさ、今日だけでも結構みんなぼろぼろなのに大丈夫なのかな、明日」
「そりゃあ俺たちの実力不足なんだろ、慣らしになっただけでもよかったって思えよ」
「そうだよね、みんなの経験になったんだもん。後ろ向きなことばっかり考えてちゃダメだよね」
そういってディアナは晴れやかな笑顔を浮かべにこりと笑った。その表情はサウザーとの決戦という大舞台の前にラッシュの言葉を聞けてよかった、という安堵が混じっているように見えた。
「それにビュウが愚痴ってたんだよな、薬もそれを買う金も足りないんだって」
「……ドラゴンに使い込みすぎてるんじゃない?」
「そうかもな」
ディアナの笑顔をきっかけに緊張がほぐれたのか、ラッシュもいつもの笑顔をみせた。
「だから補給部隊を襲ったっていうのもあるんだろうな。懐が潤ったかどうかはあいつにしかわからねえけど」
「それならだいぶ集まったんじゃないかな。そのために私たち、薬をあんまり使わないで魔法で回復してたんだもの」
「それもビュウの指示なのか?」
「うん、薬の在庫が少ないから、って。そう聞いたときも治療してる最中もなんでなんで、ってずっと思ってた。けどラッシュの話を聞いた今なら納得できるなー」
「やっと分かったか」
「なによ偉そうな言い方しちゃってさ」
いつもの二人の関係が復活したことで、この砂漠の夜の寒さの中でも不思議と底冷えを感じなくなっていることに当の二人は気づいていないようだった。
ひとしきり笑いあってから、ディアナは区切りをつけるようにはあ、と息をはき出した。
「でもこんな風にもやもや考えちゃうなら、ビュウから直接どういう考えなのかを聞きたかったな、なんて」
「言わなくてもビュウの考えなら大丈夫だろうってみんな考えてるんだろ、俺もそう思って戦ってるし」
頷くラッシュに答えるようにディアナも頷き返して、思いのたけをぽつりと呟いた。それは彼女の夢であり、純粋な思いでもあった。
「信頼、かあ。いいなあ。そういう男の人と出会いたいわよねえ」
「何だよ突然。んな夢を見るならベッドの中でな」
一方ラッシュは唐突に発表されたディアナの恋愛観についていけず思わず眉をひそめた。
ラッシュがビュウを信頼しているのは命を預かる存在としてであって、普段から彼のいうこと全てを信頼していたら命がいくつあっても足りないだろう。
それをいうべきか少し迷ったが、その間にディアナは上機嫌な様子でひらひらと手を振った。
「ラッシュにしては上手いこと言うじゃん。分かったわ、それに免じて今日は寝てあげるね」
「何でそんなに偉そうなんだよ……。ま、いっか。おやすみ」
「おやすみ!」
ついには鼻歌など歌いながら背を向け去っていくディアナを見送る。
とにかくいいたいことが彼女に伝わってよかった、と思うラッシュの心は温かいもので満たされていた。
というわけでラッシュとディアナでした。恋愛要素は1mmもないけど上手く会話が絡み合う二人の関係性って好きです。
ずいぶん前からあげるあげるといっておいて今更出来上がりました。さすがにちょっと長くない……?
とは思うのですが書きたいことは全部書けたので個人的には満足してます。
反乱軍の面子から見たビュウとラッシュたちトリオから見たビュウってかなり違う人間に見えるんじゃないかなあ、なんて思います。
それでも長い時間一緒にいるわけで、地味に、それでも確実にビュウのおふざけはファーレンハイトを蝕んでいるんじゃないかと思うとたまらないです。肝心の艦長はアレですし……。
20170123