「寒いなー」
「さむ~い! ねえビュウ、ぎゅってして!」
「あー、うん、ほら」
「わあい! ビュウだいすき!」
霞がまだ晴れず風景も頭もぼんやりとした冬の朝。いつものようにドラゴンの餌をやろうと甲板に出たビュウを待っていたのはメロディアだった。
そして自然にハグを要求され、そしてそれに従う。
正直成人前とはいえ、思春期を迎える年齢の子供をここまで甘やかしていいものかと思いつつ、頬ずりしてくる彼女の温かさを堪能してしまうのだから駄目なのだと自分でも思う。
「あたたかいな」
「えへへ、そう? もっとぎゅーってしてもいいよ?」
弾けるような無邪気な笑顔に、寒さに凍えた顔がほぐれていくのが自分でも分かる。
何かと問題を抱えた反乱軍の中で、自然体で振舞える数少ない相手がメロディアだ。
そんな存在に感謝の気持ちを込めて優しく抱きしめると、遠くから聞こえるドラゴンたちの声に耳を澄ませる。
「ほら、ドラゴンたちが呼んでるよ」
「うーん、わかった! 今日はビュウのお手伝いしてもいい?」
「もちろん」
頬を赤くして飛び跳ねるメロディアの頭を優しく撫でて頷くと、ビュウは道具を取りに戻るべく後ろを振り向いた。それを見てメロディアは反対側に向かって元気いっぱいに駆け出すと、澄んだ空に声を響かせる。
「早くこないと、サラマンダーたちの暖かいのもぜーんぶメロディアのものにしちゃうよ~!」
「ははは、俺の分も残しておいてくれよ」
はしゃぐメロディアの声と呼応するように鳴き始めるドラゴンたちの声に後ろ髪を引かれる思いで歩き出すビュウ。その目は開け放たれたドアにちらりと翻る、紫色のローブを見逃しはしなかった。
***
「……ありがとう、ビュウ。付き合ってくれて」
「いいんだ、一緒に歩くのも久しぶりだろ?」
両手を揉んでもじもじしているセンダックに向かって、ビュウはにこりと笑ってみせた。
「それに……何かあるんじゃないのか?」
「えっ」
ビュウの言葉にはっと顔をあげ、その近さにセンダックは頬を赤らめる。傍から見れば奇妙なことこのうえないが、センダックにとってはこれが日常だった。なのでどうやら、隠し事や深刻な話を抱えているわけではないようだ。そうやって繊細な彼の感情を理解できているのも、長く続くこの関係のお陰だろう。
ほっと胸をなで下ろすビュウの表情の変化に、今度はセンダックが申し訳なさそうに小さく俯きながら口を開いた。
「ごめんね、その……朝寒かったでしょう。それで早く起きちゃったから、まずビュウに挨拶したくって」
「それで部屋を覗いたけどいなかったから甲板に来たのか。ごめんよ」
「ううん、いいの」
両手を揉んだまま顔をあげ、小さくかぶりを振るセンダック。白銀に彩られたその姿は、ややもすれば愛しい青年との邂逅を果たした少女のように見られるかもしれない。
そんな物語を描くかのように、センダックは小さな手を解いてビュウに向けて差し出したのだった。
「その代わり……ぎゅって、していい?」
「ああ、もちろん」
返事とともに差し出し包み込む手の暖かさに、センダックは目を輝かせる頬を紅潮させる。雪に包まれる町であっても、これなら寒さに凍える心配はなさそうだ。
久々に大雪の降ったカーナの町を、足元に注意しながらそろそろと二人は歩き始める。
ビュウに寄り添うように手を握り歩く老人の心は、今だけは恋する少女のように眩しく燃えているのだった。
タイトルでセンダックを思い浮かべたら私の勝ち。
ワンライです。ホント文章書けなくなったな!!
当初は違うオチをつける予定でしたがセンダックが可哀想なのでやめました。
ネタにしていじるのは笑える話のときだけでいいよな~と。
20180123