Novel / 「また君か」


 「また君か」
 「私じゃダメ、みたいな顔するのね。いいわよ帰るから」
 「いやいや構わないよ、座って」
 顔をみせるが早いか背中を見せるアナスタシアに向かって、バルクレイは慌てて机の上を片付け始めた。
 

 

 「そう、じゃあお邪魔するわね」
 「はあ、それにしてもなんでこんな時間に」
 「他に時間が取れないからよ。変な噂を立てられても困るし」
 両手に腰をやって、アナスタシアは表情もろとも困った、という態度をとった。身長差のせいもあるが、反乱軍の中で特に小さいアナスタシアがそのポーズをすると余計に子供みたいだ。
 ……という素直な感想を本人の前で口にすると、リアルな雷が降ってくることは間違いない。バルクレイはぐっと出かけた言葉を飲み込んで、代わりの疑問を口にした。
 「でもその噂の中に真実があるかもしれないだろう? そこを追求してみようとは思わないのか」
 「……面白いと思う?」
 「暇つぶしにはなると思うよ。僕は堂々と女子部屋に踏み込む理由には薄そうだからやめておくけど」
 「入る勇気がないから、って言えばいいのに」
 くすくすと笑うアナスタシアの大きな目が、灯りを捉えてきらりと光る。
 「違うって。そもそも入れるのはビュウ隊長くらいじゃないか?」
 「やっぱり入りにくいのかなあ。個室がないのは仕方ないけど、だからお互い好きに行き来すればいいのに」
 「ファーレンハイトの規則にあったっけ、そういうの」
 「わからないわ。そもそも気にしたことなかったな、私」
 「お前なあ」
 互いに小首をかしげつつ、結局疑問が今晩だけでは解けないことに気づいた二人の口からは含み笑いがこぼれた。
 

 

 「で、なんの用だ?」
 「用ってほどじゃないけど、その様子だとまた調べ物でしょ? 何か知ってたら教えてもらおうと思って」
 「それならこれなんてどうかな、ドラゴンの持つ力について。僕たち全員に関係があるみたい」
 そういって、バルクレイは机の傍らに積み上げた本の中から一冊の本を取り出した。表紙にはバルクレイが言ったままの文字が並んでいる。
 「これこれ、こういうの。さすがバルクレイよね」
 「えっ、いやあ、照れるなあ」
 小さく手を合わせて喜びながら本を手に取るアナスタシア。その口から飛び出た思わぬ賞賛に、バルクレイは驚き目を見張りつつ照れからあごを掻いた。
 しかしその様子をアナスタシアは見ていなかったらしい。続いて彼女の口から出た本心に、彼は己を恥じることになる。
 「これでビュウにも褒められて、私たちウィザードはますます強くなって、バルクレイたちはますます脇役ってわけね!」
 「あっ、そういうことか……」
 「何か言ったかしら?」
 「いや、別に……」
 大きなバルクレイの背中が、言葉尻とともに小さくなっていく。その前で喜びはしゃぐアナスタシア。
 そんな二人の姿を、ランプは刻々と壁に映していたのだった。

「また君か」
BACK← HOMENEXT

バルクレイとアナスタシア。キャンベル攻略直後くらいのつもりで。
170415



top