「多分それがきっかけなんだと思う」
「……なんだって?」
ホーネットは顔を上げて改めてビュウの顔を見る。そのときの自分の顔は、普段ならおちょくられるような表情をしていたに違いなかった。
なぜかといえば答えは簡単、自分――ホーネットは、いつものようにビュウの手をとっただけなのだ。それなのにそんなことを突然言われたら、理解が追いつかなくなるのも当然だろう。
「だから」
空いた手で、ビュウは頭をかくと所在を確かめるようにとられた手の指先を深く絡ませる。ホーネットの手にすっぽり収まるビュウの手のひらを、彼は感慨深げに見つめた後顔を上げた。
「覚えてないのか? ホーネットが初めて俺の手をとった日のこと」
「……すまん、忘れたみたいだ」
「そうやって他の女とも経験を重ねてきたのか」
「なんで今その話を」
面白いくらいに焦りが表情に出るホーネットに笑顔を向けて、ビュウは小さく首を横に振った。
「ここにこうして立って、そのときホーネットはこう言ったんだ。「この船を操縦したいのか?」って」
「ああ、そんなこともあったな」
その言葉にホーネットは昔を懐かしむように目を細めた。だがすぐに首をかしげるところをみると、ビュウの言いたいことが伝わっていないらしい。
「操縦、代わるか……って話じゃないよな」
「もちろん。この船の操舵桿はホーネットだけのものって決めただろ。俺が言いたいのはこうして二人だけの船を持とうって決めたきっかけが思い返せばこれだったんだなって……全部言ったら台無しだろ!」
息もつかずに言い切った後で恥ずかしさから抜け出そうとする手を、ホーネットは操舵桿に押し付けると軽く力を込めた。これだけでもうビュウは動けないだろう。
現に自分の起こした行動がこんな結果を招くとは思わずビュウは狼狽した。だが抵抗しても無駄だと悟ったのか、全身から力が抜けるのを感じたホーネットはすぐに束縛を解いた。
「いつもみたいにもてあそばないのか?」
「なんだ、人をひどいやつみたいに――そう思ってたがやめた」
「やっぱり」
あきれたような、面白がっているような顔をするビュウに、ホーネットは苦笑を返した。
「そんな顔するなよ。思い返せばどうしてビュウが俺の誘いに乗ってくれたか不思議ではあったんだぜ? だからこうして思い出す機会があってよかったなと思ったんだ」
「すっきりしたか?」
「ああ、とっても。よし、今日は一緒に飛んでみるか」
「乗った」
ホーネットの提案にビュウは笑顔で答えると、言い終わるが早いか操舵桿に手をかける。その上からホーネットの手が重なり互いの熱がひとつに溶けあう。
二人が見つめるオレルスの空は、今日だけは違った色をしているように思えたのだった。
私だって見たいわ!というわけでホービュウ30分クオリティ。
締めをもっと自然にさらっと書けるようになりてーです。
170412