「かにのみそしる?」
「かみのみぞしる、ですよビッケバッケ」
「カニかー、確かに食うとこないもんな」
「確かに煮て味をつければ美味しいかもしれませんが…ってそうではなくて!」
二人のマイペースぶりに流されそうになり、慌ててトゥルースは首を横に振った。額に垂れた汗が払われて小さな光の粒が散る。それでも汗の残る額に、前髪が張り付いてトゥルースはそれを煩わしそうに摘み上げるのだった。
トゥルースたち三人は、今日は初夏の陽気にほてった体を冷ましに河原まできていた。もちろん、目的はそれだけではなく手頃に食べられる食料を手に入れることでもある。
川はカーナ王都を守るように置かれた外壁の外を流れている。つまりは堀の役割を果たしていたが、その一部は水路として国の中を走っており、国民の憩いの場所となっている。
しかしそれは、路上生活をしている彼らにとってはなんの恩恵ももたらさなかった。住民から白い目で見られることには慣れていたが、それでも事情を知らない子供に指をさされると今でもどきりとするのだった。
他に人のいない河原で、はしゃぐ今の彼らは傍から見れば街角の子供と同じに見える。それを意識しようがしまいが、彼らにとってはあるがままを出せる大切な時間なのだった。
「で、なんか見つかったか?」
「うーん、小さい虫しかいないなあ」
ラッシュと同じように手ごろな岩をひっくり返しながらビッケバッケは答えた。捕まえ、つまみ上げ、口に入れようとするがすんでのところで手が止まる。その隙を捉えて逃げ出す虫を目で追って、またちがう石を返し始めた。
「トゥルースも休んでないで探せよな」
「別に私たちはここに食べるものを探しにきたわけでは……」
「だってよー、せっかくだし食べたいだろ?」
それだけ言って、ラッシュは作業に戻る。後は言葉にせずとも分かるだろうと言いたげなその背中に苦笑を投げかけると、トゥルースは小さく息をついて立ち上がった。なんだかんだで二人の願いをかなえてやりたいと立ち回る自分は嫌いではない。たとえ叶えられなかったとしても、二人の笑顔がすべてを吹き飛ばしてくれるからだ。
「ラッシュ、ビッケバッケ。そんな川から離れたところにカニはいませんよ」
「よしきた!」
「えっ、なになに?」
すかさず振り向いて駆け寄ってくるラッシュとビッケバッケ。頷きしゃがむトゥルースにならって彼らもしゃがむ。横一列になった彼らを見て、とてもカニを探しているとは思わないだろう。
半分水没している石を軽くかき分ける。すると中で休んでいただろう小魚が、慌てた様子で飛び出しあっという間に流れていった。
「こういう溜まりにいることが多いんですよ。それでも素早いので、見つけても捕まえるのは大変だと思いますが……」
「数うちゃあたるだろ! いいかお前ら、今日の夕メシはカニづくしだぜ!!」
「よーし、がんばるぞー!」
ラッシュの号令を皮切りに、三人は散ってカニを探し始める。少なくとも足首が川に浸かっている以上、元の目的は達成されているといえるだろう。
「そもそも、カニがたくさん捕まったところでどうやって料理するつもりなんでしょうか……」
つぶやき、トゥルースは空を見上げる。正中にある太陽の光に目を細めつつ、帰る時間を計算した。これだけ時間があれば、腹いっぱいにはならずとも多少はカニにありつけるだろう。
三人に決まった家はない。だからもちろん料理をする場所などあるはずもない。きっとラッシュがいつものように大人にゴネて、ビッケバッケが間を取り持ち、トゥルースが話をまとめて料理にありつく。そんな風景が当たり前のように頭に浮かんで、彼はくすりと笑うのだった。
「きっと、後のことは神のみぞ知る、なんでしょうけどね」
頭だけ書いて放置されてたやつ。オレルスに、というよりカーナに味噌なんてまずなさそうなんですが似たようなものはあっていいよね?ということでここはひとつ。
170517