Novel / 「兵隊ごっこしようぜ!」


 「兵隊ごっこしようぜ!」
 「……兵隊、ですか」
 思わぬ言葉にトゥルースは眉をしかめた。争いごとを極端に嫌う彼のこと、この反応は想定内だったと言いたげにラッシュは大げさに首を横に振ってみせる。
 「いいか、これからおれたちはパトロールに行こうと思う」
 「どこまで行くのー?」
 「そうですよ、そもそも私たちにとってはどこへ行っても安心できる場所なんてないんです」
 純粋な興味から食いつくビッケバッケとは反対に、トゥルースは正論を言うことを忘れなかった。
 確かに今いる橋桁の下は三人にとって、唯一落ち着いて眠れる場所だ。逆を言えば、それ以外では明るく振舞っているように見えても必ず誰かが周囲を警戒していないととても安心などできなかった。
 「だから、だ」
 「……どういうことですか」
 「どうせどこも敵だらけならよ、おれたちもカーナ軍みたいにすればまわりもちっとはびびるんじゃねえかって思ったわけよ。どうだ、名案だろ!」 「余計に目立つだけじゃないですか……」
 思わず頭を抱えてトゥルースはため息を零した。そして地面に落ちた視線を戻してビッケバッケに移す。もちろん彼に同意してもらい、ラッシュに諦めさせる助けになって欲しいがためだ。
 「面白そうだね! ねえねえ、誰が隊長になるの?」
 「ええ……」
 「もちろんおれだ! ビッケバッケとトゥルースはー、ええと、トゥルース!」
 「……はい?」
 「なにしけた顔してんだよ。なあ、隊長の下の名前って分かるか?」
 「そうだよね、トゥルースなら物知りだしきっと知ってるよね!」
 すっかり乗り気で目を輝かせるラッシュとビッケバッケ。二人の顔を交互に見て、トゥルースはどうもここから形勢逆転できる手立てはないと見込んだ。そして決心とはよほど遠い息をひとつすると、そうですね、と口にした。
 「私もしっかりとは覚えていないのですが、曹長や仕官がいたかと思います」
 「じゃあビッケバッケは曹長、でトゥルースは仕官な!」
 「わかったよーラッシュ、じゃなくてラッシュ隊長!」
 「へへっ、なんだか照れるぜ」 そう呼ばれることが純粋に嬉しいのか、ラッシュは頭をかくと手近にあった二本の腕ほどの長さの枝をそれぞれの腰にさげる。もちろん鞘などあるはずもなく、代わりにそれを固定するのはズボンのベルトだった。
 「よーし、それじゃ行くぜ! 二人ともおれについてこい!」 言うが早いか、ラッシュは我先にと青草の生い茂る堤防を駆け上がっていく。
 「待ってよーラッシュー」
 「やれやれ」
 そんな彼の背中を慌ててどたどたと追いかけるビッケバッケ。抜けたように見えて、彼の片手にもいつの間に拾ったのか太めの枝が握られていた。 何も起こらなければいいのだけれど。その思いを胸に、トゥルースもゆっくりと彼らの後に続いたのだった。

「兵隊ごっこしようぜ!」
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兵隊ごっこナイトトリオ、まだまだ続きます。続きはここ。
カーナ騎士団の階級ってどうなってるんだろう、に一番頭を悩ませるとは思わなかった……。
170604



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