人間、暑ければ汗が吹き出るし、寒ければ鳥肌が立ち身が震える。
だがこの相棒に限っては、そのどちら大しても平然としていることに気がついた。
そんな事実を確認していられるほど、今の自分は追いやられているわけで――。
「……ビュウ、どうした?」
「どうしたじゃ、ない」
何度目かの身震いをして、ビュウは呟いた。吐いた息が先から固まり、白い大地に紛れていく。本当はあまり喋りたくなかったが、そうでもなければとっくにこの身も大地の一部になっているに違いない。
そもそもどうしてこんな軽装で雪の中にいるのだろう。
本来の目的すらぼんやりと霞みはじめる思考を払うように、傍らの相棒は瞬いた。
「そうならそうと早く言うといい」
その言葉はため息のように大地に広がり、二人の目の前に積もっていた雪を一瞬で溶かした。だが現れたのはごつごつした岩肌で、お世辞にも暖まったとは言えなかった。
「これでどうだ」
「……大層な魔法だことで」
「ふむ……」
無関心極まりないビュウの返しに、バハムートは彼の表情を伺った。翼が傘代わりになっているはずなのに縮こまった体は震えており、口を開けば歯はがちがちと音を鳴らした。顔色も来た頃に比べて青ざめている。
まったく、人間とはなんと繊細な生き物だ。
だからこそ、傍に置いてずっと眺めていたい。
我ながら面倒な奴だとバハムートが自嘲した瞬間、ビュウの青い目にぎらりとしたものが宿った。
「……そもそもだな」
「どうした。言いたいことがあるなら言えばいい」
「なら言ってやるよ。どうして、バハムートの体はこれみたいに冷たいんだ」
呪いのように吐き出して、ビュウは足元に降り積もった雪を蹴った。
「なにを言い出すかと思えば。確かに古くから人間は、寒さに身を合わせて温めあっていたようだが」
「――サラマンダーは暖かかった」
その一言は、バハムートに対する最大のあてつけなのだろう。
ぴくり、とまぶたが痙攣するのをバハムートは感じていた。意識して抑えようとするほど体は素直に反応する。だがそれを当のビュウは見ていないようだった。俯き加減に膝を抱え、雪を蹴り飛ばしている。
「ふかふかで、ほかほかで、触れ合うことが何より好きな子だった」
すっ、とビュウの視線が上がり見つめあう。強い意志を秘めた彼の目は好きだが、今回ばかりは自分が標的なのだからややこしい。
「バハムートは正反対じゃないか。体に柔らかい部分なんてなくて、暑くても寒くても平気なんだろ。よくそれで動けるな」
「そういう作りだからな。この体で熱を放ってでもみろ、生態系が一変しかねないだろう?」
正論を嫌味なしに言ってみたつもりだったが、ビュウとしては納得がいかないらしい。眉根を寄せて不満を分かりやすく表している。
「分かった。分かった、が――」
言いよどむ。で? と言いたげなビュウの視線に負けて、バハムートは言葉を続けた。
「体感できるほどの暖かさを保つために、今からこの大地を三分の一ほど抉らなければならない。ビュウには私の上に避難してもらえればいいが、ベロスの動向を人知れず見守るという当初の目的は――」
すっくとビュウは立ち上がった。肩に積もった粉雪がぱらぱらと落ちる。相変わらず吹きすさぶ吹雪を前に、構わず彼は叫んだ。
「これだから! 神竜様は!!」
程度を知らない特定個人への溢れる優しさを前に、ビュウはがくりと肩を落としたのだった。
ビュウヨヨへの3つの恋のお題:怖くない、と言ったら嘘になるけど、でした。
自分の中のビュウヨヨはこんなんです。小さくて甘いのが好きなんです。大きくて切ないのも美味しいんですが。
書いてて年齢が不詳になってきた。15とかそれくらいを想定していたのですが撃沈度MAXすぎましたorz 0626